クリュッグをこよなく愛し、仕事もプライベートも心の底から愉しむクリュッグラバーたちが、年に数回密かに集っているのが、このクリュッグ・ミッションだ。今回は、2011年、クリスマス間近のとある日、西麻布の音楽スタジオでスタートした。この夜は、ホストの千住さんの提案で、メンバーに内容が明かされないシークレットな集いとなった。過去のミッションに参加し、その世界に感銘を受けた千住さんは、今回自らホストの役割を引き受けてくれたのだった。
午後7時30分、未知なる世界への期待で目を輝かせるクリュッグラバーたちがひとり、またひとりと集まってくる。歌舞伎役者の中村扇雀さん、人気漫画家の荒木飛呂彦さん、尺八演奏家の藤原道山さん……。幅広いジャンルの10人である。ホストが千住さんで、会場がスタジオであることから“クリュッグと音楽”が重要なキーになっていることまでは、皆が察していた。
スタジオのレコーディング・ブースへとアテンドされた10人のゲストに、そこで初めて、この夜のテーマが明かされる。
「JOURNEY INTO KRUG UNIVERSE」─クリュッグの旅─である。
「今夜は、音楽と味覚でクリュッグの世界を旅していただこうと思っています。一夜限りのスペシャル・プログラムを、たっぷりと楽しんでください」
オープニングは、千住さんのピアノの伴奏でヴァイオリニストの中川貴美子さんが「浜辺の歌」を演奏。きよ田のマグロの赤身とともに1998年のクリュッグ・クロ・ダンボネが供された。
「いかがでしたか?」
クロ・ダンボネの想像を超えた気高さ、深みに、ゲストたちは驚愕し、高揚し、無言で顔を見合わせる。
「クリュッグのクロ・ダンボネは、気候に恵まれた年の単一畑で収穫されたピノ・ノワールだけを使った非常に稀少な1本です。皆さんが今テイスティングした1998年産も、わずか数千本しか造られていません。クロ・ダンボネとともに味わう音楽は何か──。僕は最小限の楽器によるプリミティヴなソロ演奏だと考えました。ヴァイオリンの音に、産地であるアンボネ村のブドウ畑の陽ざしや、風や土の匂いを感じてほしかった」
次はピアノと弦楽四重奏、計5名からなるクリュッグミッション・カルテットによるシューマン作曲弦楽四重奏曲。それと共に、中トロとクリュッグのヴィンテージ1998が登場し、今度は皆に幸福な笑みが浮かぶ。
「味に広がりを感じていただけたのでは? こちらは'98年に収穫された3種のブドウをブレンドしたヴィンテージです。演奏も広がりを表現できる弦楽四重奏に、さらにはクリュッグというメゾンが生まれた時代の音楽にしてみました。シューマンのこの曲は、1842年に作曲され、翌'43年、つまりクリュッグ創立の年に発表されています」
そして、今回のクリュッグミッションのクライマックスとして行われたのが、冒頭の“クリュッグミッション・アンサンブル・東京”による演奏だったのだ。クリュッグの真髄とされるグランド・キュヴェの世界は、千住さんのオリジナル作品で表現され、最後はクリスマスシーズンにふさわしく、アンサンブルの生演奏を伴奏に、10人のクリュッグラバー全員で「Joy To The World」を合唱。藤原道山さんも尺八で参加し、実に豪華なコラボレーションになった。
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